2010年8月23日 石垣島名蔵湾でユメゴンドウがストランディング | ||
8/23 晴れ時々曇り 日中最高気温32℃ 旧暦8/16 大潮 ○連絡後、現場に向かう 午後5:00過ぎ 「イルカらしき3〜4頭が名蔵湾に入り込んでいて、ケガをしているようで出て行く気配がないと市民から通報があった」との連絡が入る。 通報者の連絡先を聞き、電話を何度かかけるが応答がない。 発見されたという名蔵湾の現場に向かう。(みね屋工房から北に約500m) 午後6:00過ぎ 現場に着くと発見者がおられ、イルカたちは少し前から見えなくなったとのこと。 発見者は、「観光客をドラゴンボートに乗せて引いていた時に、近くで背びれが見えた」 「3頭のイルカがこの湾の奥に入ってきていて、一頭がケガをしていた」。「その3頭はまったく沖に向かう気配がなかく、ケガをしていたことから、海上保安庁に連絡した」とのことだった。 発見者からデジカメで撮った写真を見せてもらいユメゴンドウと判断。 この種は、これまでにもこの時期に石西礁湖ではストランディングや浅瀬で留まっているのがよく見掛けられている。 主に、八重山近海では4月から9月にかけ目撃、確認されていて、私達はこれまでこの種を一番多くストランディングなどの救援活動を行っている。 2000年にイルカ&クジラ救援プロジェクトが発足してから救援活動で関わりがあった鯨類たちは、見るからに何かに驚いたり恐怖を感じ、パニックになっているというのが分かる状態で、ほとんどの場合、それを落ち着かせ、沖に連れ出すというのが私達の救援活動の内容となった。 結果的に今回もそうであったのだが、イルカたちが何らかの原因でパニックになっていたり、サメに襲われたであろう傷があったり、何かに脅えていることがほとんどで、猛烈なスピードで近づいてくる物や、サメ、オルカ等襲われたときにパニックに陥るようだ。 ユメゴンドウは、八重山近海を数頭の群れに別れ、いくつかのグループが黒潮とともに北上しているものと考えられる。 その一部のグループは夏期の一時期、近海に留まっている可能性もある。 (この時期は近海でイカの仲間を多く見掛けることができるし、浜近くではボラの群れをよく見掛けている) 午後6:30頃 名蔵湾のイルカが発見された場所でメンバーとともに45分ほど辺りを見渡していたが見つけることができなかった。 まだ沖に出て行っていない可能性や、見つけられたユメゴンドウ以外の個体がいる可能性があるので、見えなくなったという北方向を海岸沿いに捜索してみることにした。 ○救援活動の始まり 午後7:00過ぎ
海に入る準備を整え近づいて行くと、3頭のユメゴンドウが波打ち際にいて、そのうちの1頭が波打ち際近くで横倒しになり、見るからに正常とはいえず、何らかの病気か異常な精神状態になっているような状態でもがいていた。 別の1頭は少し離れた場所で静観。もう1頭はパニックになっているユメゴンドウをなだめたり落ち着かせようとしているようで、パニックの1頭にピッタリ寄り添っていた。 パニック状態の1頭を落ち着かせようとサポートしているユメゴンドウは常に冷静に状況判断していて、私が海に入る前からすでに私が何をしようとしているのかも分かっているようだった。 もう1頭の静観しているユメゴンドウも落ち着いていて、10m程離れてその場所を動かずに2頭の様子をうかがっているという状態だった。 午後7:30頃 八重山でも既に陽が落ちて、辺りは薄暗くなり始めた。 この日は旧暦の16日で大潮。この時間は満潮で潮が一番満ちている状態だった。 今回、夜間の活動であったが、すごく助かったと思うことが2つある。 1つは、日中の救援活動ではなかったこと。この時期の炎天下では、例え数分でも空気中に鯨類を曝すことは、皮膚の乾燥と強い太陽の直射光によりかなり危険な状態となるだろう。更に海での活動は救援する私達にもかなり過酷な状況で危険なものとなる。 もう1つは旧暦16日で満月で天候も良く、辺りが十分明るかったこと。 一時、電灯を照らすとユメゴンドウは落ち着きがなくなったことからも、落ち着かせるために刺激を与えないようにしなければならなかった。日没後しばらくすると、こうこうと月が辺りを照らしてくれたため、問題なく活動をすることが出来たことだった。 パニックになっているユメゴンドウは、体を横倒しにし小さく円を描きグルグルとまわっていた。その外側をぴったりとくっついてサポートしている1頭のユメゴンドウが泳いでいる。 そして、そのサポートしているユメゴンドウは、常に一定間隔の連続で、キュイン ジー キュイン ジーと音を立てている。 私には、「大丈夫だいじょうぶ、落ち着いて」と言っているように聞こえた。 この後も、この音は、主にサポートのユメゴンドウがパニックの1頭を落ち着かせる必要がある時に、連続してこの音を出していた。 波打ち際の浅瀬では、サポートしているユメゴンドウがパニックになっているユメゴンドウの下に体や尾ビレ潜り込ませたり、そのような体勢になるよう体をくねらせてスキンシップを図ると共に呼吸を助けようとしている。 サポートのユメゴンドウは、頭の上に乗られて息ができない状態になっても、長い間息をこらえ、相手がそこから動き息ができるようになるまで動こうとしなかった。 今回のように3頭がストランディングし、そのうちの1頭がパニック状態。別の1頭が落ち着かせようとしている。更にもう1頭が少し離れて静観しているというのは極めて稀な状況だろう。 私は、この状況に立ち会うことができ、彼らの社会性や集団座礁の原理、精神的な関わり方が少し分かるようになった。 午後8:00頃 これから干潮に向かい、徐々に潮が引いて計算上ではこの状態から干潮時は70cm程潮位が低くなってしまう。 しかも、この場所は干潟と同様に潮が引くと1km以上も歩いて行けるほど遠浅の海域。 この場所に留まっていると完全に干上がってしまうのは確実だ。 しかし、パニック状態のまま沖へ連れ出したとしても、また必ず近辺の浅瀬に戻ってきて、次に潮が満ちてくるまで命がある可能性が低い。 午後8:30頃 近くにある小さな川の河口は、周りより少し深くなっているはずなので、今のうちにそこに連れて行こうと考えた。 まずパニックになっている1頭の胸びれをつかんで横倒しのまま移動させ始めた。途中、水深の浅くなっている場所では多少体を持ち上げ気味にして引いて行った。 何度か落ち着きをなくし暴れそうになるので手を離し、また胸びれを持って引っ張るということを数回繰り返して河口までの15m程を移動させた。 続いて、サポートしていたユメゴンドウを同じように移動。更にもう1頭を同じように2頭のもとへ連れていった。 この2頭は、私にされるがままという状態で、暴れたりすることはまったくなかった。お陰で、わりとスピーディーに移動させることができた。 3頭の体には目立った傷は見られなかったが、静観しているユメゴンドウの背ビレ前方が何かにぶつかったような擦りむけた傷がついていた。 また、パニックになっているユメゴンドウの胸あたりに、サメに甘噛みされたような歯形傷が小さく点々と15cmぐらいの円形でついていた。 ○長い長い時間 午後9:00頃 少し疲れたのか、3頭とも呼吸時以外は音を立てずいるという状態で、落ち着いて来ているように思えた。 潮がゆっくりと引き出していて、河口から川の流れが沖に向かってゆっくりと流れ出している。 これぐらい落ち着いた状態ならば少しでも沖に運んでおいた方が良いと考え、3頭をその川の流れに乗せようと考えた。 3頭を少し移動させ、川の流れに乗せた。そのまま3頭は流れに乗りゆっくりと沖のほうに運ばれて行ったが、だいたい波打ち際から100mぐらいだろうか、その辺りで流れはほとんどなくなり水深が70cmほどのところで止まってしまった。 その辺りはどこまでもほとんど同じ水深が続いていて、まだまだかなり沖に行かないと水深が増すことがない。 3頭は、何とか泳げる状態のようなので、しばらくそのまま様子を見守ることにした。 できれば自力で潮は引く前に沖に出て行ってくれればよいのだが、まだ落ち着きがなくパニック状態だったが、私達は一旦浜に戻り3頭だけにしてみた。 午後11:00頃 3頭の居た場所に戻ると、静観していた1頭と他の2頭が30mほど離れてしまっていた。 気がつくと、静観する1頭のいる場所は水深50cmほど。他の2頭がいる場所は40cmほど。 この状態では、ここから移動させることは不可能なので、ここで次の潮が満ちてくるまでやり過ごし、落ち着くのを待つことにした。 その決定により、このまま潮が満ちてくるまでメンバー3人が、ユメゴンドウ3頭に体が干出する部分に海水をかけたり、胸ビレ辺りの砂を掘り、体の体圧がかかりすぎないように体の1/3以上が干出しないようにしたりとしなければならなくなった。 午前0:00頃 予想していた以上に潮は引き、ユメゴンドウ達が横倒しになってしまった。 そして、その場所は最干潮時の水深が20cmほどになってしまった。 イルカたちはこのような状況、状態になってしまった時、必ずといってもいいほど左体側部を下側にして横倒しになる。 鯨類の多くは呼吸孔が頭頂部中央よりも少し左側にある。 体の半分が水面から出ている状態だと、もし右体側部を下側に横倒しになっているとしたら呼吸孔が海水面上に出ていることになり、呼吸するのに体をくねらせなくても良いので呼吸が楽に出来るはずだ。体の一部だけが出ているとしても、大きく体をくねらせる必要がなくなるので、無駄に体力を使わなくても良いはずだ。 そのため、早めに右側が下になるよう動かしたり、左側が下になっているときは反対に向けようとしていた。 しかし、呼吸孔に海水が溜まりやすかったり、鼻孔から肺に向かう鼻腔の経路などを考えても、肺に海水が入らないようにするためには、左側を下にするほうが良いのだろう。 午前0:30頃 かなり潮が引いてしまい、体の半分が水面から出てしまっているが、あまり水深があるより呼吸は楽にできるようだ。 あまり体が水面上から出てしまい内臓等を圧迫しないように、胸ビレあたり下側の砂を手で掘り、体の2/3ぐらいは水中に浸かるように心掛けた。 この場所は、砂だけではなく貝殻やサンゴのかけらが多く混じっている。その為、ユメゴンドウが体を少し動かすだけで、身体が接地している部分には擦過傷がどんどん増えていく。深い傷が付かないように、掘ったところや周囲のサンゴや貝殻、岩を取り除かなければならなかった。 水面から出ている部分は、乾燥させないためと体温を下げるため海水をかけ続けた。 多分、この場所の海水温は30〜33℃。ウエットを着ている私たちも汗だく状態だった。 この場所はこの時期ハブクラゲも多く、ウェット等を着用しないと危険なのだが、ウェットを着たままでの長時間の作業は夜間でなければできなかったことだろう。 また、私以外にメンバー2人が救援活動に加わってくれていたので、ほんとうに助かった。もし夜中に1人でこの活動をしていたら私の体力も持ったかどうかわからない。 午前1:00頃 そろそろ潮がゆっくりと満ち始めてくるだろう。潮が引き始めてから私たちはずっと潮が満ちるのを待ちわび続けた。 このような場所では、潮が止まっている時間はわりと短いので、潮が引き終わり、しばらくするとジワリジワリと潮が満ち始めてくる。 パニックの1頭は、私たちが寒くなり震えるのと同じような状態で、ずっと体が小刻みに震えていたのだが、気がつくとすでにその震えは止まっていた。 ○潮が満ち始め移動 午前1:30頃 ほんとにゆっくりとだが、潮が満ちてくるのが分かる。 私達の気持ちは、少しでも早く、もう少し沖のほうの深い場所へ移動したいと焦っていた。 周囲のどの部分が深くなっているのか歩いて調べたみた。 2頭とは少し離れていた1頭のすぐ沖側(約10m)に、現在いる場所より少し深くなっている場所があったので、その1頭を移動させる。 午前2:30頃 ある程度潮位が満ちてきた(+10cm程)ので、胸びれを持って水深60cm以上ある場所へ2頭を移動させはじめた。 横倒しのまま胸ビレと背側を持ち上げ気味にして移動させる。 ユメゴンドウとともに私達もかなり疲れていたということもあり、もう少し潮が満ちるのを待てず、やや強引に20mほど沖側に移動させた。 パニックになっていた1頭は、発見時に移動させたときのように暴れたりはしなくなっていた。しかし、体を強ばらせ無理矢理引っ張られるのは嫌な様子だった。 さらに潮が満ち、その場所の水深が80cm以上となりユメゴンドウが直立して泳ぐことが可能な水深となったのだが、3頭ともまだ横倒しのままになっている。 今までの経験からも、この横倒しになる状態から直立して泳げるようになるのは、かなり難しく時間もかかることが多い。 ただ今回は2頭はパニックや喪失していない状態なので、正常に泳げるようになる可能性は高いはずだ。 まず、一番落ち着いていてパニックをサポートしていたユメゴンドウの背ビレを持って直立させ、数分のあいだ様子を見ていると、私が押さえなくても正常に泳げるようになった。 静観していた1頭は同様に背ビレを支えていても戻らなかった為、背ビレの後ろ側をしばらくの間、私の足のあいだに挟み込んだままにしていた。 しばらくすると、尾ビレを動かし、泳ぎだそうとしたので放してみると、正常に泳ぐことができるようになっていた。 その後、徐々に潮も満ちはじめ、パニックになっている1頭以外は、以前のように正常に泳げるようになった。 午前3時過ぎ 水深1mぐらいになると、パニックの1頭が横倒しになりながらも力強く反時計方向に半径5mほどの円を描いてグルグルと回り出した。 それにピッタリくっついてサポートの1頭が力強く泳いでいる。 あとはこのままにして大丈夫だろうと感じたことと私達もかなり疲れていたので、救援はここまでにして切り上げることにした。 私がその場所を離れる3時半まで、沖ではバシャバシャと音を立てながら2頭がグルグルと円を描いて泳いでいた。 翌朝、早くからマスコミのカメラクルーが周辺を見回り、どこにも見えないとの情報をくれた。 その後、午前中、私も見て回ったがその海域では何も見掛けることはできなかった。 きっとその3頭は沖に出て仲間のもとへ戻ったものと考えている。 ○まとめ 鯨類は人間と同じほ乳類ですが、日本では魚と見なされ、国の取り決めでは魚類と同じ扱いになっています。 その為、鯨類が座礁したり事故が起きても、基本的に国や公的機関がそれに対応することはありません。日本では事故が起きた場合、主に水族館や博物館等の専門家、地方自治体、市民やイルカ&クジラ救援プロジェクトのような民間ボランティアが対応しています。 今回、及びこれまでの経験から私達が学んだことは、迷い込んだ鯨類は「何らかの原因(事故)があり、そこに来てしまった」ということ。 そして、その多くの場合は、恐怖を感じていたりパニック状態になっていて、すぐさま無理矢理その場所から追い出そうとしてはいけない。 パニック状態が落ち着くまで、しばらく様子を見ることが必要だということ。 もし、パニック状態のまま無理に追い出しても、また戻ってきてしまったり、沖で弱り助かる確立は少ないだろう。 正常な状態の鯨類ならば、港や湾、遠浅の砂浜から沖に出るのは容易いこと。 しかし、今回のようにグループの仲間の1頭がパニックになっていた場合、それ以外の仲間も同じように危険な状態に陥ることが普通である。 救助にあたる場合は、その場所の潮の干満とともに、このことを頭に置いて活動しなければならない。 鯨類のみならず、人間でも他の動物であっても、その動物を知り、あなたがその動物の立場に立って考えれば、どのように行動すればよいかが分かることと考えます。 また、同様によく起きている鯨類の事故として、日本と中国、韓国を結ぶ超高速の水中翼船にザトウクジラが頻繁に衝突している問題がある。 頻繁に起きている時期や場所から考えると、ザトウクジラの親子が移動中、未知の物体(水中翼船)がものすごいスピードで近づいてくるのに対し、それから子供を守るためにその物体と子供の間に親が割行ってしまうため事故が起きると考えられる。 ※内容には、科学的な根拠のないこと、個人の主観や感覚で述べている部分があります。しかし、鯨類の救助については必要なことだと考えています。ご参考、研究材料にしていただければ幸いです。 |